旅的楽苦

　どこかに出かける前に、まずネット上で向こうの情報を探したり集めたりする人は相当多くなっている。自分もその中の一員である。しかし、旅の途中でとんだ素晴らしい風景を前に写真を取ろうとするとき、いつも隣の観光団や行きずりの観光客に「ちょっとあの山って写真通りに素敵だわ」とか「やっぱりテレビの番組との紹介がそっくり」と聞かされる。そういうと、ずいぶんありふれた感動でもあり、また自分でも旅するときにほっとこんな言葉を口に出してくるかもしれないが。実はマップやら番組などのナレーションより、むしろ向こうの景色こそずっと数万年前も既存していた。現地へのインタビューやら旅先への案内なども向こうに行って初めてやっとわかったことにすぎない。だから事前に何も知らないうちに何か偉い自然環境や景勝地の見事さが目に入ったらさらに感動してしまうだろうと思う。しかも、マップやら案内のアドバイスがある限り、逆に元々の思考回路を真っ逆さまにさせてしまうともいえるのだろう。それに対して、現代人の我々はたぶんそこまで気付きはずっとしていなかったらしい。そうして、人はもともとど素朴な感動さえも失ってしまうほど、実に残念なことでならない。

　また現代社会によって、飛行機の技術は日進月歩だといえるほか、人に苦労をかけず、主にあっというまにどこかに行けるように発明されるともいえようか。その反面、移動するスピートが速まる一方、旅という場合は本当にこれで適するだろうかは少し疑問を抱えてくる。昔のフェリーに乗れば、たぶん半月間ぐらい経ってからでないと絶対にインド洋をわたってヨーロッパのどこかに到着できないといっても、現代の飛行機の場合はほとんど半日間だけさえかければすぐ向こうにつけるようになる。旅の道が長ければ長くなるほど、物語だっていっぱい詰まってくるはずだが、その目的地に早速到着できるのを目当てに旅をするなら、正直旅なりの楽しさは半分ぐらい減ってしまうぐらいだった。むしろそれこそ旅の楽しさと思い込むのも現代人の気の毒でもあろう。紅海を渡る時に悠々といろいろな人に出会ったり話し合ったりするような「結婚狂想曲ー囲城」のシーンはたぶん飛行機の早さにもまけてしまうのだろう。ならば、それなりの風情さえも消してしまうに違いないのだ。